・・・『創造的福祉社会』は今の日本の社会のありようを語って、どちらに向けて変えてゆくべきかを提言する本である。
そんな本ならば世に嫌というほどある。その中でこの本がユニークなのは、たった今の日本社会の分析が精緻である上に、未来へ向けた提言の視野がおそろしく広く深いところだ。その間を無数の観察・理論・仮説・主張がつなぐ。
(中略)
ここまでは辿(たど)りやすいが、この本はこの種の具体的な議論からはじめて、はるか先の社会の姿まで遠望しようとするのだ。夢想に流れることなく堅実な思想を土台にして、しかし大胆にそこに至ろうとする。
まずは成長という概念を捨てよう。そのためには二十万年前に遡(さかのぼ)るヒトという種の誕生まで視野に入れて、成長期と定常期を分けなければならない。人口がぐんぐん増したのが成長期、それが穏(おだやか)になったのが定常期。
ヒト=人間が内的な飛躍を遂げたのは実は定常期だったと著者は言う。定常期は停滞期にも見えるけれど、その時にこそ大きな変化が訪れた。その一つがおよそ五万年前、「心のビッグバン」と呼ばれる精神文化の展開である。そこで我々ははじめてシンボル操作を生み出し、芸術や呪術を生んだ。
もう一つの機会は、およそ二千五百年前で、ギリシャとインド、中国とパレスティナで、それぞれ独自に、人間の普遍性を目指す思想が生まれた。
この両方の精神的飛躍はどちらも経済的な成長期から定常期に移ったところで実現している。もしも我々が「義務としての経済成長」から解放されて、年齢差や性差を超えて親しく行き来できる小さなコミュニティーを作り、製造業と同時に介護などのサービス業にも力を注ぎ、物質的な豊かさとは別の方面に創造性を発揮すれば、人類はもう一段階の進級を遂げるかもしれない。そういう流れへのガイドラインとしてぼくはこの本を読んだ。