バンクシーの姿勢において最も重要と思われるのが匿名性です。
彼の作品は、「バンクシー」のものだとは特定されても、バンクシーと名乗る人間がどのような 存在かは暴かれることはありません。
匿名を徹底する理由は、幕府を皮肉った危険性の高い「落首」同様に、ヴァンダリズムという違法行為を罰せられるから、 だけではありません。
「2ちゃんねる」などの匿名メディアが活気づく理由は、「匿名だから何を書いても良い」からではなく、「どのような立場から発された 意見か特定ができないから」なのではないでしょうか。
議論というのは「そもそも」の話に持ち込めばすぐに息詰まってしまうものです。
「男だから」、「女だ から」、「貧乏だから」、「黒人だから」。
謎に包まれたバンクシーのプロフィールで知られているのはイギリスのブリストル出身であるということくらいです。
例えばイギリス人である彼が労働者階級出身なのか、ホワイトカラーなのか、それが明らかになっただけでも作品の意味や文脈は固まってしまうでしょう。
階級間闘争という解釈をされたり、リアルなストリート感覚がないだとかいう意見を持つ人間が現れるはずです。
だからバンクシーは自らの出自を徹底して隠す のでしょう。
作品そのものではなく、活発な議論こそ現代の美術作品の本質であると知っているから。